地理学におけるコスモポリタン的教育の可能性

2017-11-26

デヴィッド・ハーヴェイ氏の講演に参加することができたので、彼の著書『コスモポリタニズム 自由と変革の地理学』を再読しています。

といっても、予備知識が足りないせいもあって、なかなか読了できないでいるのですが・・・

自由のレトリックと地理学の悪魔

この本『コスモポリタニズム 自由と変革の地理学』のプロローグの翻訳本におけるタイトルは『自由のレトリックと地理学の悪魔』。

地理的なイメージの問題に興味がある私にとっては、たいへん興味深いプロローグでした。

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たとえば、こんなことが書かれています。

 ヌスバウムが不満を唱えたあの地理学的無知をむしろ助長することこそ、長期にわたってアメリカの国民教育政策の主要なーだが秘密のー目標だったのである。

だが、さまざまな諸地域や諸文化や諸民族がまるごと、後進国だとか未熟だとして悪魔扱いされたり幼児扱いされたりするとき、また、人の住む地球上の大地域(たとえばアフリカ)がまるごと、十分な価値を生産できないからという理由でどうでもいいものとして見捨てられるとき、さらにまた住民の大部分を意図的かつ入念に地理的・生態学的・人類学的に無知なままに置くことで、少数のエリートがその狭隘な利害にしたがってグローバルな政治を展開することができるとき、こうした状況をかんがみると一見したところ陳腐で無害に見える地理的知識がずっと陰湿で危険なものに思えてくるだろう。

単に「悪魔は地理的細部に宿る」というだけではない(そういうことはあまりに頻繁にあることなのだが)。

理解しなければならないのは、その細部のすぐれて政治的な性質である。

残念ながら、私たちが持つ地理的なイメージは、帰属する集団の世界観や個人的な経験の影響によって、どうしても偏ったものになりがちです。

そのことに注意して情報を与えたとしても、そこから描き出される地理的イメージが、現実とは異なったものになってしまう可能性は少なくありません。

そして、さらに問題なのは、こうした偏った地理的知識が政治的に利用されている場合があるということです。

地政学と言説

このことは、次の書籍の第1章『地政学と言説』(執筆者:高木彰彦氏)で指摘されていることとも重なりました。

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この中で、高木氏は外交に携わる専門家の地理的イメージの偏りが外交政策に影響を及ぼすとしています。

他にも、印象に残った箇所がありましたので引用して紹介しておきます。

これから日本における地政学(政治地理学)研究の活性化することを期待しつつ、地理的知識(地理的想像力)について少し学んでみたいと思っています。

1.1 外交政策と地理的イメージ

私たちは世界の国々に対して様々なイメージを抱いている。そうしたイメージには個人的な体験に基づくものもあれば、私たち日本人がある程度共通に抱いているものもある。

私たちは世界の国々に対して多様なイメージを抱いているが、こうしたイメージの中には、私たちの実際の見聞に基づく確かなものもあれば、逆に乏しい情報から想像を膨らませて形成された内なるイメージも見られるのである。

私たちの持つ地理的イメージは、私たち自身の文化的、社会的、歴史的な背景によって形成されている。

私たちは、それぞれの歴史的、文化的背景によって形成された、偏ったイメージで世界の国々を見ている。

1.3 地政学の復活と批判地政学

大衆メディアによって形成される場所イメージや場所の表象といった地理的想像力は、国民的・文化的コンテクストにおいて幅広く国民全般に共有される。そうして、こうした地理的想像力を背景として、大統領や外交官などの外交問題の専門家が実際に制作に携わる。

1.4 欧米中心主義的な地政学的想像力

ヨーロッパ人の世界観、すなわち地政学的想像力がヨーロッパ人の世界進出を支えるとともに、その後の植民地主義、帝国主義に重要な役割を果たしたのである。

1.5 他者の表象とメディアの影響

私たちが世界を表象する様式には偏りがある。

私たちはメディアによる媒介もあり、偏りを持った世界表象を国民的に共有し、そうした地理的表象が外交政策や軍事行動などの行為に影響を与えるのである。つまり、客観的で中立的な世界の見方などなく、その結果、特定の地域が強調され、逆に別の地域は見向きもされなくなるのである。

地理学におけるコスモポリタン的教育

デヴィッド・ハーヴェイ氏の著書にもどりたいと思います。

彼は、「一定の地理学的描写を通じて知らず知らずのうちに政治的プロパガンダを展開してしまう危険性が大きく影を落としている」としながらも、プロローグの終わりの部分で次のようなことを書いています。

私の目的は、地理学において(生態学および人類学と並んで)コスモポリタン的教育を実現することが可能であり、それと同時に困難でもあるということを証明することである。

このような教育は、グローバルガバナンスの自由で開放的な形態に適合した新たなコスモポリタン的な知的秩序を構築しようとする動きに有意義な貢献をもたらすだろうし、場合によってはそれを抜本的に再定式化することになるかもしれない。

デヴィッド・ハーヴェイ氏が考える「地理学におけるコスモポリタン的教育」を内容を期待しながら、さらに読み進めていくことにします。

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