「今年のノーベル経済学賞は行動経済学者が受賞」から考える

2017-10-10

今年のノーベル経済学賞は米シカゴ大のリチャード・セイラー(Richard H. Thaler)教授が受賞しました。セイラー教授は著名な行動経済学者で、著書は日本でも翻訳もされています。

実は、このニュースを聞いて不思議に思ったことというか、気になったことがあります。

それは、人文地理学の領域でも似たような研究をしている人がいるのに、行動経済学のように注目されないように感じるのかということです。

行動経済学がノーベル経済学賞を受賞するのは、今回が初めてではありません。もちろん、行動経済学とは正反対と思えるような経済学の研究が受賞の対象になっている場合の方が多いですが・・・

ずっと前に、ジョセフ・スティグリッツ教授が受賞した時も、彼の研究は経済地理学の研究とほとんど同じなのではないかという印象をもちました。

空間経済学と経済地理学は確かに基盤にある学問は違います。でも、研究対象や分析方法についてはあまり大きな違いはないように思います。まぁ、どちらの領域で取り組まれている研究であろうとも、それが私たちの社会生活にとって有益な研究であれば、特に気にすることではありませんが・・・

繰り返しになりますが、やはり個人的に気になるのは、経済地理学の分野でもスティグリッツ教授のような研究が行われているのに、なぜ大成しない(大成しているように感じない)研究が多いのかという点です。

最近の経済学では、数学を駆使し、説明モデルを構築するような自然科学に近い研究が多く行われています。しかし、このような研究は、かつて人文地理学の世界でも取り組まれたことです。また、行動経済学と似たようなアプローチで研究を進める行動地理学という研究分野が注目されたこともありました。

しかし、人文地理学者と名乗っている方で、行動地理学を専門としていると紹介する人は、ほとんどいないのでないかと思います。経済学の中で行動経済学がどのような位置付けなのかはわかりませんが、「合理的経済人」を前提としない経済モデルが現実世界を説明する有力な方法のひとつとなっていることを、今回のノーベル経済学賞受賞は示してくれたように思います。もちろん、正反対の研究も評価されています。

どんな研究でも前提となる条件があって、はじめて説明が可能になります。現実に起こるさまざな現象はあまりにも複雑で、その全てを包括的に説明することは難しい状況があるからです。

そういった科学史的な流れの中で、人文地理学(経済地理学)の世界でも、行動経済学の研究と同様に、人間の心理や情動等を加味した説明モデルの必要が語られたこともありますが、経済学のようには大成しなかったように感じます。

また、経済地理学での研究も、空間経済学のようにその内部で完結するのではなく、空間情報科学という別領域に足場を移して研究者も少なくないような印象を持っています。

個人的な感想なので、本当のところは違うのかもしれません。

しかし、新しい視点からの研究がその学問内部では大成できず、消えてしまったり、他分野に移行してしまったりするということが人文地理学の世界ではわりと多かったように感じるのは少々残念に思えます。

もしかすると、それぞれの学問を研究対象としている研究者数の違いが影響しているのかもしれませんが、よくわかりません、こうした状況を生み出している原因はどこにあるのでしょうか・・・

できれば、こうした人文地理学における研究も経済学の研究と同じように、多くの人々から有益な研究だと認められるといいなぁと思います。現時点で認めてくれる人が少なくても、将来的に有益な研究である場合もあることにも期待したいものです。

以上、ノーベル経済学賞のニュースを聞いて、人文地理学での研究についてちょっと思いついたことを書いてみました。